映画の感想などなど

自分が観た映画の思ったまんまの感想。

偽りなき者

『偽りなき者』

原題:『JAGTEN』

監督:トマス・ヴィンターベア

主演:マッツ・ミケルセン

公開:2012年

制作:デンマーク

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この映画、元々予告の部分だけは見てたから何となくあらすじは知ってたんだけど、自分の職業柄ゆえになんか怖くて今まで避けてました。でも、北欧の至宝マッツ・ミケルセンが主演なのがやっぱり気になって見てしまった。

 

観た結果......うん、すご〜〜〜く暗澹とした心持ちになった......。

 

《あらすじ》

主人公マーカス(マッツ・ミケルセン)は、デンマークの片田舎で暮らす中年男性。離婚して息子とも離れて暮らし、勤めていた小学校も閉鎖され、幼稚園教師として働いている。

家には愛犬いるのみだが、猟友会の古くからの友人たちと酒を飲み、仕事では子供と一緒になって遊ぶ穏やかな生活を送っている。

マーカスの親友、テオの娘のクララもその幼稚園に通っているが、いつも優しく面倒をみてくれるマーカス先生に淡い恋心を抱く。

幼稚園の部屋で遊ぶなかで、大好きなマーカスにキスをして、プレゼントも渡す。

マーカスは驚いたが、勿論幼稚園児のチビッコ相手なので、「プレゼントは好きな男の子かお母さんに渡しなさい」「唇へのキスはダメだよ」と優しく諭してあげる。

(ここまでだったら、ただの可愛らしいほっこりエピソードで終わるんだけどなぁ...)

 

ところが、このやんわり諭されたのが気に食わないクララは、女性の園長先生に「マーカスは嫌い」といじけて言ってしまう。

それどころか、あろうことか「マーカスに性的な悪戯を受けた」という嘘をついてしまう。

 

勿論園長はビックリ。その後マーカス本人にも、専門家にも話をして警察沙汰に。マーカスはあくまで自分は何もしていないと言うものの、狭い田舎町の人々は彼を変態扱いしてしまう。そこからは...地獄......。

これ以上書くのは辛い...。

 

 

 

《酔っ払いと子供は嘘をつかない》

デンマークの諺だそうです。何とも皮肉...。

子供とは無垢で無邪気な存在である。というのは、どの国でも共通する認識だと思う。この無邪気さがこんな恐ろしい事態を引き起こしてしまうってのは、自分の経験上非常に身につまされるものがある。怖い怖い...。

クララはちょっと拗ねただけ。言葉が違えば笑って済ませるような可愛いもの。幼児がやってないことを「やったもん!」て嘘つくのはよくあることでしょ?

でも、それが『マーカスがいきり勃ってる〇ん〇んを見せてきた』って内容だと大人の反応も変わってしまう。(お下品な表現で申し訳ないがほぼそのまんま)

これをみんな「子供は嘘をつかない」から信じてしまう。

 

で、また怖いのが、大人たちがマーカスを休職に追いやって、どんどん大ごとになっていくうちに、「わたしホントはそんなことされてないよ」と言っても今度は大人たちがそれを聞いてくれない。

「クララ、いいのよ。とても辛い経験をしたから記憶が混乱してるのよ。そんな嫌な目にあったのに最初に教えてくれてよく頑張ったわ」.

こんな具合。

 

さらにさらに恐ろしいのが、周りの大人がそう言うので、クララ本人も自分が言ったことが嘘か真実かよくわからなくなってしまうんだよね。

これ、小さな子供を持つ人はわかるんじゃないかな?幼児期の子供って経験と想像を同じものとして認識する事が間々ある。その無垢さが、真実をますます見え辛くさせ、マーカスを追い詰めていく。

 

《JAGTEN》

この映画の原題『JAGTEN』はデンマーク語で『狩り』を意味する。この映画見終わった後で調べてみたんだけど、やっぱりこれ、邦題のセンス酷いな...。

物語の途中で、主人公マーカスは逮捕され、取り調べなどを受ける。この時点で、邦画だと『それでも僕はやってない』みたいな冤罪を取り扱ったテーマにシフトするのかな?と思ってしまったんだけど、完全に邦題詐欺である。

 

この映画は『冤罪』を主題にした作品ではない。だから、取り調べの様子や裁判などは一切描かれていない。車に乗せられるところのみ。

それはこの映画が真実を見極めることをメインに取り扱ってるのではなく、『狩り』を主題としているから。

物語冒頭と終わりに鹿狩りをする姿がモチーフの様に現れて来るんだけど、果たしてこの映画の中で『狩るもの』は誰か?『狩られるもの』は誰か?

人が狩る側に回った時の集団心理の怖さを思い知らされる。

 

この映画に悪人は居ない。子供の面倒を優しく見てあげる教師も、先生へ自分なりに愛情表現をする子供も。子供を性的虐待から守ろうとする親も悪くない。描き方故に園長の潔癖さが嫌だと言う人も居るかも知らんが、自分の教え子や子供が同じ立場になったら多分同じような行動をすると思う。

ただ、人が《狩る側》に回った時、それが集団だった場合、ここまで悲惨な状態になるのか、と凄く暗い気持ちになる。

 

デンマークは北欧に位置する国で独立心の強い国であり、劇中でも大人の仲間になる時に、親から猟銃を受け取り鹿狩りに行くといった描写がなされる。

ただ、この映画に登場する町は、実に日本に似た感覚を持ってるなぁと感じた。

主人公マーカスが、証拠不十分で釈放された後も、彼は町の人間から徹底的な村八分を受ける。そもそも小さな町で、殆どのひとが顔見知り。そんな中でスーパーの肉の購入すら断られ、精神的にボロボロにされていく。(観てるこっちも精神的にかなりキツイ)

この村八分、マーカスの愛犬を殺したり、家に石を投げたりかなり陰湿。これってなんだか最近急に増えたツイッターとかでの『私刑』になんだか似てるな、と思った。

 

果たして『狩り』はただの私刑なのか、魔女狩りなのか。

 

《北欧の至宝マッツ・ミケルセン

この映画の一番凄かったのはやっぱり俳優の演技。

マッツ・ミケルセンの教会でのこの表情。

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この場面、もうなんだか観るのが辛い。どうしようもない気持ちにさせるんだけど、やっぱりこの顔と表情ね。この人イケメンなのになんだか哀愁漂うんだよなぁ。

今度発売されるゲーム、「デスストランディング」に出演するんだけど、そっちも楽しみ。今かなり注目してる俳優さんの1人です。

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《最後に》

この映画のラストシーン、銃声の意味を考えれば考えるほど暗い気持ちになってきた...。

観なければよかったかもしれないけど、見応えはあった。