映画の感想などなど

自分が観た映画の思ったまんまの感想。

ゴーストオブツシマと時代劇

『ゴーストオブツシマ』

『Ghost of Tsushima』

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ジャンル:アクションアドベンチャー
対応機種:PlayStation 4
開発元:Sucker Punch Productions
ディレクター
ネイト・フォックス
ジェイソン・コーネル
発売日:2020年7月17日

 

 

はい、映画の感想ブログと言いつつまたゲーム。読者が居ない以上好きに書かせてもらう。

 

《サムライ映画をゲームに》

このゲームは、サムライを主人公としたチャンバラゲーム。それだけ言うと世の中にゴマンとあるゲームの一つな感じはするんだけど、まず、前提条件として開発元が海外であるという事。なので、外国から見た日本、外国から見たサムライが描かれる。

そこで映画と繋げると思い浮かぶのがこれ。

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ラストサムライ

ご存知トムクルーズ主演の明治初頭の時代に取り残されたサムライを描いた作品。こちらの作品は、多分西南戦争とかの士族による反乱をベースに作られた物語。

この映画は大ヒットしたけど、日本の描写についてツッコミを入れる人もたくさんいて、中には結構否定的な評価を下す人もいる。個人的には、明治時代というとても好きな舞台設定だったのと、CGを使わずに合戦の様子を描いたクライマックスに関してはすごく良かったと思う。

ただ、登場人物の思想とか物語の構成についてはいかにもアメリカンな感じは確かにあった。この映画は良くも悪くも『ハリウッド映画』だと思う。日本への愛情はすごく感じた。

 

それに対して、このゲーム、「ゴーストオブツシマ』は如何なるものか...。

 

 

《ゲームというフォーマットと舞台設定》

このゲームの舞台は鎌倉時代対馬。簡単な粗筋を紹介すると...。

主人公は対馬國の武家の息子、境井仁。父を戦で失ってからは対馬國を治める地頭の叔父、志村家に引き取られ武士道精神、武士の誉れを重んじる立派な武士に成長する。

そして時は文永...。モンゴル帝国の将軍コトゥン・ハーン(フビライ・ハンのいとこ。勿論架空の人物)が率いる元軍が、日本征服のため対馬國の小茂田浜へ押し寄せてきた。

仁は対馬國を守るために武士団とともに激戦を繰り広げるが、元軍の集団戦法と最新兵器によりあえなく敗走。武士団は壊滅し、叔父の志村家当主は囚われてしまう。重傷を負った仁は女野盗のゆなに助けられ、叔父を助け出し対馬國を守るために再び立ち上がる。

 

ここまでが物語の冒頭。まぁ日本人なら誰もが知ってる文永の役、蒙古襲来が物語のベースになってることはわかる。まず、この時代を選んだことが面白い。

 

自分は職業柄、大人になってからも歴史を学び続けてる。調べるほどに感じるのは、中世以前の日本史は半分ファンタジーなんだな、てこと。平安時代まで遡ると実際に陰陽師だとか妖魔調伏の物語とかホントに御伽話が多い。時代劇で江戸時代や幕末が多いのは、資料が多く残っててイメージさせやすいってところが大きいと思う。

その点から見ると鎌倉時代ってのは一般的な武士を描いたものからするとかなり特殊。戦国武将でもなく維新志士でもなく鎌倉武士となるとだいぶ古い。

その分ゲームに落とし込む際に、多少変なところがあっても鎌倉時代ならまぁわからんよね〜、って言える絶妙な古さ。新撰組とかになると写真資料すら残ってるから創作すると絶対不自然なところでてくるしね。

 

《蒙古襲来》

時代劇をゲームにする上で、オープンワールドでチャンバラ劇を繰り広げるとなると分かりやすい敵が必要になる。

江戸時代だと平和すぎて成り立たない。戦国時代だと同じ武士同士の戦いだからゲームだと視覚的にちょっと分かりづらい。

となると元寇をモチーフにしたのはとても上手い。モンゴル帝国っていう明らかに武士とは違うわかりやすい存在が敵になるし、土地を守るっていう明確な動機づけにもなる。

対馬を舞台にしたのも大陸に近いことや史実からも自然だし。ホントの対馬は多分もっと山が多いんだろうけど、規模的にもオープンワールドとしてはちょうどいい広さ。

 

ゲームとして見ると...。

敵を倒して強力な武器を手に入れる。

元軍が用いていた火薬兵器を奪って使う。

(歴史の教科書に載ってる『てつはう』ね)

 

敵の拠点を制圧して探索範囲を広げる。

対馬に乗り込んできた元寇が野営として築いたゲル(モンゴルのテント)が敵地の目印になる。

 

などなど。ゲームとして、歴史的な資料を上手に落とし込んでる。これが江戸時代だったら色々突っ込んでしまうとこかも知れないけど、元寇だと、「こんな感じだったのかなぁ」と何となく納得できちゃう。

 

 

《武士道とは》

物語の中で主人公の仁は、模範的な武士でありたいと願うが、同時に武士の戦い方のままでは元軍に敵わないことを痛感していく。

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ほらこの教科書にも載ってるこの絵。蒙古襲来絵詞。火薬の使用と集団戦法によって、一騎討ちを基本とした正々堂々と戦うことを旨とする武士はとても苦戦しましたよ、ってやつ。

この絵今でも研究されてるんだよね。絵の一部は後世で加筆されたものだって最近わかったり。......脱線しました。

 

ゲーム中、敵と正々堂々戦いたい時はボタン一つで一騎討ちを申し込むことが出来る。如何にも武士らしく敵の攻撃に抜刀術で一刀のもとに斬り伏せる。

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ただし、ゲームを進めるとこれだけでは攻略は難しくなる。史実では、文永の役で送り込まれた元軍は約4万人。相手の方が圧倒的に兵の数が多い。そこでゲーム内でどうやって物量差に対抗するのかというと...

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↑闇討を行う仁

いわゆるステルスキル。武士の戦い方だけでなく、必要に応じてステルス要素を用いた戦い方も駆使していくようになる。

当然13世紀ごろの日本に忍者は存在しない。武士は、誇りを重んじ、正々堂々と戦うことこそが誉れである、という時代である。

そこにこういう要素を入れてるわけだけど、製作陣はよく歴史を調べて、いわゆる「NINJA」が居ないことも理解した上でやってると思う。

物語の中心となるのは、仁が武士道を貫くか否か。闇討ちを行い、手段を選ばず対馬の民を守ろうとする彼を、次第に民は『冥人(くろうど)』という二つ名で呼ぶようになり、武士とは違う希望として捉えていく。

ただし、本人は武士道に背く闇討ちを行うことに苦悩する。地頭である叔父からは非難され、武家としての立場を危うくしていく。

 

これを海外の人が作ったって凄いことやなって思う。サムライカッコイイ!だけじゃなくって日本人の武士道精神を本気で丁寧に理解しようっていう姿勢が見て取れる。

 

《時代劇をゲームに》

今作の開発陣は武士を描く、と同時に時代劇をゲームに、という意識がそうとう強い。

まず、キャラ造形。

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↑主人公 境井 仁

モデルさんには悪いけど決して美形じゃない。でもってどこから見ても日本人とわかる顔立ち。如何にも泥臭い武士っぽい顔。今のご時世、イケメンにしようと思えばいくらでも出来るのに敢えてこういう見た目にしたのは、明らかにわざと。黒澤映画のイメージ。

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海外の人の黒澤明好きって正直本国より熱狂的。ゲーム内にもわざわざ粒の粗いフィルターかけて白黒にする「Kurosawa MODE」なるものまで完備。音声までノイズを入れる徹底した作りで日本映画への愛がこれでもかってくらい詰め込まれている。

 

それでいて、風景描写などは敢えてファンタジーっぽさを残してる。対馬の気候や植生は敢えて無視。整合性よりも日本的な四季の表現を優先して全て対馬にぶち込むあたり、海外のフリーダムさを感じる。

この自由さと時代劇への愛情の絶妙なバランスでホントに独特な雰囲気の作品になっている。

 

 

《ゲームの中身は》

このブログはあくまで、映画の感想ブログの体なんで、プレイレビューはあまり書かないつもりだけど、ゲームプレイも充分楽しめた。

よく「SEKIRO」と比較されるみたいだけど、あのゲームとはそもそも狙ってるゲーム性が全然違うからあまり比較対象にならないのでは?と思ってしまう。少なくとも自分はどちらも相当に楽しめた。

 

一つだけ、ちと残念と思うのは...、これだけ史実も丹念に調べて、実在する日本の島を舞台に

オープンワールドの大作を、日本では多分作れないんだろうなぁということ。それこそ「SEKIRO」の完成度とクオリティくらいしか和ゲーに比較対象がない。パシフィック・リムを見た時と同じなんとも言えない気持ちになる。

 

折角これだけ日本を舞台に良いゲーム作ってもらったんだから、日本のゲーム会社もアメリカの西部劇をモチーフにして、馬を乗り回すオープンワールドのゲームを作ってみては...あ、R.D.Rが......