映画の感想などなど

自分が観た映画の思ったまんまの感想。

ジョーカー

「ジョーカー」

原題:「joker」

主演:ホアキン・フェニックス

監督トッド・フィリップス

製作国:アメリカ合衆国

公開:2019年

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バットマンシリーズの懐の深さ》

自分も全て見たわけではないけどアメコミの中でも特にバットマンは色々な広がり方をしてる。アメコミの実写化って言えばアベンジャーズの様な大作アクション映画になりやすい。面白いし、派手で楽しめる。バットマンシリーズもそんな中の1つ。ド派手なバットモービルで駆け回ったり、撮影のために本当にスタジアム一個爆破したり。

そのシリーズの中でもほぼ独立した今作はスリラー映画。サスペンス映画と言ってもいいけど微妙にちがうかな?

DCコミックが元々「Detective Comics」だったこと考えると当然っちゃ当然なんだけど、これほど振り幅が大きいと、賛否は分かれてしまうんだろうな。アクション皆無で終始画像暗めだし。

とはいえ、これだけ話題になってて、予告も散々流れてるなかで、今作にジャスティス・リーグ的な盛り上がりを期待して映画館に足を運ぶ人は悪いけどおバカですわな。

 

《ジョーカーのキャラクター性》

バットマンの宿敵で、アメコミのヴィランの中でも最も人気者の1人であるジョーカーの特徴の1つに、アイデンティティがとても曖昧であることが挙げられる。

例えばマーベルヴィランマグニートーは、ホロコーストの生き残りのユダヤ人である、とか。ヴェノムは宇宙からやってきた寄生生物で地球上では誰かに寄生しないと生きていけない、とか。勿論長い年月をかけて設定が練られていったんだろうけど、最近の悪役はわりと出自がわかりやすい。悪に堕ちた理由も含めて。

 

それに比べるとジョーカーは作品によって出自がコロコロ変わる。まず本人が語る言葉は殆どがジョークで自己紹介は信用出来ないし、作品によって事故で顔が白くなったとか、一体どれがジョーカーの正体なのかとてもわかりにくい。

00年代にその後の映画作りそのものを変えてしまった「ダークナイト」のヒース・レジャー版ジョーカーは、設定からして出自も身元も全てが謎。バットマンを追い詰める狂人として、ひたすら不気味に描かれた。何のバックボーンも持たせずに演技力のみであれだけのキャラを作り上げたヒース・レジャーはやっぱ恐ろしい俳優だった。

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ジャレット・レト版は同じく狂人ではあるけど、出自にもある程度触れて、「スーサイド・スクワッド」のポップなノリに合わせた面白いアレンジだった。んで、若い。(個人的にはもっかい観たい)

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こんな感じで映画の中でも出るたび見た目も中身も変わるジョーカーだけど、本作はジョーカーという狂人の起源、コミックだったらタイトルに「origin」てつきそうな物語。その中身は...。

 

 

《ジョーカーが生まれる世界》

今作では、ジョーカーは一貫して社会的弱者である。ただし、世の中で取り沙汰される弱者ではなくて、社会から弾かれて顧みられることのなかった弱者。

自分の意思と無関係に笑ってしまう障害(実際には障害とは違ったわけだが...)に周囲の理解を得られず、社会的保障を受けられず、だれからも見てもらえない中年。

この人物像は観る人の立場によって、共感的に観ることができる人とそうでない人がはっきり分かれそうな気がする。

少なくともいわゆるアガリを決め込んでるアメリカの上級国民様たちにはジョーカーの言動の意味を理解することは難しい。

その一方で大多数の一般市民でも、ジョーカーのことをどう捉えるのか...。

 

※以後人権的にやや不適切な表現があるので、不快な人は見ないでください。

この映画に出てくる人物達の中にはいわゆるマイノリティがチョコチョコ出てる。差別の対象になってる人も。でも、劇中では、主人公アーサーよりは救いがある。

シングルマザーの黒人女性は貧しいながら職業を持って働きに出ているし、小人症の男性も、真っ当に働いており職場の人間との関係も良好である。ある意味アメリカの現在をわかりやすく表現してる。

アメリカでは障害者や性的マイノリティ、人種差別に対して過剰なまでに人権団体が口出しするもんだからそう言った人の声は少数でもよく届く。

勿論歴史的に長い年月をかけた努力の賜物なのは間違いないんだけども。

それが、現代の世の中では映画に黒人が登場しないだけで差別と騒がれ、ドラマにゲイが登場しないと訴えられ...自分自身でマイノリティと言うわりに声高にアピールしてる分優遇されてるんじゃねーか!と言いたくなる事もある。

いや、勿論自分も差別を許さないって言うのは同意なんだけど、なんかモヤモヤする。

 

それに比べると本作のジョーカーは本当の意味でなにも配慮されていない。

アーサーは白人で、母親を介護しながら暮らす2人暮らしで、不気味で、コメディアンを目指してるもののただバカにされるだけ...この人物はホントの意味で誰からも眼を向けられていない。

そんな人物は実際の世の中でも顧みられることはない。

 

この映画を社会的に読み解くと、2017年公開の「スリー・ビルボード」に少し似た雰囲気があることに気づく。

アメリカの社会におけるサイレント・マジョリティの叫び。そのどうしようもなさがジョーカーの笑い声に込められてる気がしてしまう。

 

とはいえ、そんな御大層な見方をしなくてもこの映画は十分面白い。裏のメッセージまで深読みしようとするのは映画を純粋に楽しむためにはあんまり良くないよなぁ。

 

バットマンの前日譚として作られたドラマ「ゴッサム」もなかなか面白いけど、今回この映画が大ヒットしたことで、アメコミの実写化はさらに別の方向での可能性を示した。早くも続編の企画が立ち上がってるらしいし今後も楽しみだ。