「奇跡」
公開:2011年
監督:是枝裕和
制作:日本
〈概要〉
九州新幹線全線開通を記念して2011年に公開された映画。是枝裕和監督にとっては初めての企画ものの映画。
そして九州在住の自分にとってはわりと身近な映画。とはいえ実は九州新幹線ちゃんとのったことなくて、来月鹿児島旅行で乗る事が決まったので何となく改めてこの映画観ることにした。
映画とは関係ないけど、九州新幹線が全線開業したのは2011年3月12日。東日本大震災の翌日である。なので、当時は九州の人間も正直それどころじゃない感じで、実際の開通は静かだったような印象がある。
これは有名な話だけど、全線開業を記念したCMも地震の影響で3日間しか放送されなかった。
https://m.youtube.com/watch?v=UNbJzCFgjnU
これがそのCM。
なんだかとても素敵なCMで結構好き。1発撮りで九州の人々の協力でできたこのCMは、後の熊本地震の際に復活放送され、九州の人々の励みになった。
本作はその新幹線全線開業を題材にした少年少女のロードムービー。
〈あらすじ〉
親の事情(離婚)で離れ離れで暮らす小学生の兄弟。6年生の兄、航一は母と鹿児島で、4年生の弟、龍之介は父と福岡で生活をしているが、いつかまた家族4人で暮らしたいと願う兄弟は、九州新幹線全線開業の朝に、『新幹線の上りと下りが初めてすれ違う瞬間に願いごとが叶う』という噂を耳にする。2人は計画を立てまわりの人々も巻き込んで一夏の冒険に出る。
〈子役について〉
あらすじの通り、この映画は小学生の少年達をを描いたロードムービーである。当時、兄弟のちびっ子漫才コンビで人気だった『まえだまえだ』の2人が子役として主役2人を演じた。他にも子役が数名でてるけど、改めてキャストを見ると、まだ例の写真で有名になる前の10歳くらいの橋本環奈がちびっ子の一人として出てたのはちょっとビックリ。
子役をメインにした物語って難しいとこがあるよな。演技が上手ないわゆる天才子役が必要な映画も沢山ある。サスペンスだったり感動モノだったり子供のお陰で素晴らしい作品になったものもたくさんある。
......んだけど...。
子供が良い演技すればする程現実味がなくなってくジレンマがあるように感じる。大人が子供に対して思う『子供感』。泣けば演技が上手いって評価。それって行き過ぎると作り物な感じが強くなってしまうんだよな。
ひと昔前で言えば芦田愛菜とか。すんごい上手な演技を披露してるけど、『子供が作品に寄せていってる感じ』がして、なんか好きになれないことがある。別に彼女のことを悪くいうつもりはない。完全に制作者側の大人の問題だと思うけども。
その辺是枝裕和監督はやっぱり色々とわかってる。この監督、子供に脚本を渡さない手法で有名。この人の作品の場合、『作品を子供に寄せていってる』んだよね。
脚本渡さずに、現場でセリフを口頭説明して子供に委ねるそうだ。
実際この映画もキャスト選びの段階で子供を見て脚本どころかストーリー自体変えちゃったらしいし。
だから子供達の会話がほんっっとに自然。変に感動的にしないし、作り物感を感じない。あ、これ完全に子供達素の表情だな、って思う瞬間が沢山ある。
それがこの穏やかで爽やかな映画にぴったり。
映画の内容もこの作り方に合ってる。合わせた、なのかも。
〈子供たちの見る世界と大人たちが見る世界〉
映像も子供たちに寄せている。だから普通の映画だとやんないよな、ていう撮り方もしている。
大人の目線と子供の目線って30〜40センチくらいの違いだと思うけど、実は随分見えてる世界が違う。花を見る時の角度、道路の広さ、空の高さ、あらゆるものが違う見え方をする。
そして動きも違う。子供がいる人はわかると思うけど、子供ってとにかく走る。めっちゃ走る。息が上がってゼェゼェ言おうが走りまくる。
カメラの高さとか移動の仕方とかを子供に合わせて、主人公たちと一緒に旅してる雰囲気が感じられる。
かと思えば、子供たちの表情がわからないくらいの距離をとって景色全体を見せる場面もある。セリフのある場面では、出演者の顔を見せてどんな表情で話してるのかわかるように撮るのが普通。でも本作は完全にわざとだな、て思うくらいカメラが引いて撮ってる場面がちょこちょこある。
これは多分、大人の立場から観た子供たちの景色なんだな。もう自分が戻ることの無い懐かしい子供時代を、子供が見ている景色を、遠くから見守る目線。
この2つの目線のバランスがすごく良い。観ていて基本的に親の気持ちで観るんだけど、子供の言動も「あったな〜そういうの」て気持ちで観られる。
〈日常的なロードムービー〉
この映画、確かに旅を描いたロードムービーなんだけど、スタンド・バイ・ミーとかのようなものとは若干違う。2時間くらいの映画の中で実際に旅をしているのは30分くらいなんじゃねーかな?他の大部分は旅の計画だったり家族とのやりとりだったり、友達と遊んだり習い事に行ったり、極めて普通な日常場面だったりする。特別な事件は起きない。
よく考えたら子供時代の冒険ってそんなもんだよな。自分も小学生中学生の頃に自転車で遠出した思い出があるけど、子供らしい冒険ででっかい事件とかには出会わない。次の日には学校もあればプールとかにも行く。子供たちは学校や習い事の間に冒険をする。大人から見たら小さな冒険だけど本人たちはその『合間の冒険』に全力なんだよね。
それをうま〜く見せてくれる。まぁ電車で県外行くっていうのはちと大きな冒険かもしれんけども。
何気ない子供たちの日常を自然体で見せる。
これをさらりとやってのけるのがすごい。ちびっ子にしかない輝きが観られる良い映画だと思う。
〈大人について〉
大人についてはこの映画では脇に徹している。
ダメ親父がオダギリジョーだったり先生役に長澤まさみと阿部寛とか、やたら豪華だけど物語の中心には入ってこない。まぁ主人公の親夫婦は多少重要だったりするけど。
「子供達を見守る大人達」を子供の視点から映すってのも面白い。個人的にも「先生ってこんな風に思われてんのかねぇ」とか考えたり。
で、多少前の映画になるから今はもう観ることの出来ない方々の姿もお目にかかれる。
樹木希林に原田芳雄、亡くなった名優の自然体の演技も雰囲気に合ってて良い。
〈少年期の思い出〉
この映画は少年時代を思い出す映画ではある。
だけど、自分はどちらかというと変に感傷的になるよりは酒でも飲みながら爽やかな気分に浸る感じで見るかな。全編で流れるくるりの音楽も心地いいし。
「万引家族」がどんなものか、まだ観てないけど、現時点では是枝監督の作品で1番好きなのはこの映画。