映画の感想などなど

自分が観た映画の思ったまんまの感想。

death stranding その2

 無駄に長くなってしまってる。ダラダラと書いてもまとまらなくなるだけだが、まぁいいか。

前回でこのゲームの見た目についてまとめたので今度はもっと中身を。

 

 

《世界観》

https://m.youtube.com/watch?v=S3bpqlDEl6A

 語るよりこのPV見た方が早い。そーなんだけど流石にそれだとあんまりなので、出来る範囲でこのゲームの舞台設定について考えてみる。

 

↑のPVで示されてる通り、本作は近未来の北米大陸が舞台であり、「デスストランディング」と呼ばれる災害によって分断された都市を繋ぎ直し、滅びを回避しよう、ていうのが大まかなあらすじになる。

 そんな物語の冒頭で、小説「なわ」の一節が引用されている。

 

 「なわ」は、「棒」とならんで、もっとも古い人間の「道具」の一つだった。「棒」は、悪い空間を遠ざけるために、「なわ」は、善い空間を引きよせるために、人類が発明した、最初の友達だった。 ――安部公房『なわ』

 

 この引用からゲームがスタートするわけだけど、この文章を念頭においてプレイすると、作り手の意図がそこかしこに盛り込まれていることがよくわかる。

 

 まず、タイトルについて。

 strandという単語には「座礁する」という意味がある。

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↑鯨みたいな生物が浜辺に大量にうちあげられることを「mass stranding」と言うらしい。

 「death  stranding」というゲーム中の現象は、文字通りに「死」が世界に座礁してくることを指す。

 この世界では、死んだ人間は48時間以内に火葬しなければ、ネクローシスという状態を引き起こし、この世に留まる、「座礁」した存在の「BT」となってしまう。

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↑これが「BT」。早い話が亡霊。普通の人には見えなくて、臍帯のようなものに繋がれて現世を彷徨っている。

 本来この世に存在しないはずのものだから、こいつに現世の人間が取り込まれると対消滅をおこしてあたり一面がクレーターになってしまう。

 

 一方、「strand」という単語には、「より糸・なわ」といった意味もある。この、なわもこの物語の重要なモチーフとなっている。

 この「なわ」に関する重要なキーパーソン、いや、アイテムかな?として登場するのがBB。

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↑やはりこの赤ちゃんも臍帯で繋がれてる状態で登場する。

 BB(ブリッジ・ベイビー)の設定が可愛い見た目に反して結構エグい。

 この子、脳死状態になってしまった母親の胎内から28週以内に取り出され、成長をストップした状態にある装備品である。臍の緒は機械に繋がれて、脳死状態の母親の胎内環境を擬似再現させている。

 それ故にこの子は擬似的に死んだ母の胎内にいるため、産まれてきていない。→生きても死んでもいない→あの世の存在とも繋がっている。といった理屈で、あの世の存在であるBTの気配を感じとることが出来る。

 

 このキャラが最たる例だけど、「strand」=「なわ」=「つながり」というのが、このゲームの根幹にある。膨大な世界設定や用語も全てこれを表現するためのものであるといえるかも。

 

《なわによるつながり》

 では、ゲームとしてどのように「つながり」を表現しているか。このゲームにおける他者とのつながりを一言で表すと、現代のSNS的であると言える。

 現代のゲームの例に漏れず、このゲームもオンラインで他のプレイヤーと繋がってプレイすることができる。が、このゲームでは、安部公房の言う「棒」による繋がりは意図的に排除されている。「棒」つまり武器を手に他者と協力することは出来ない。

 モンハンのように強大な敵をよってたかって武器で集団暴行することもなければ、チームに別れてどこかのプレイヤーの頭を銃で狙うこともしない。

 何かを排除するためや攻撃する為のネットワークプレイをことごとく拒絶している。(ボス戦ではアイテムを投げてもらったり多少の協力はある)

 じゃあ何にネットワークを利用するか?それは旅の移動の際に残された誰かがそこに居たという緩いつながりである。

 デモンズソウルに痕跡を見るシステムがあるけど、ちょいとそれに似てるところがあるかも。ただ、それに比べると随分能動的ではあるかな。

 誰かが移動のために使った、梯子や登山用のロープ(ここでもなわ)をその場に残して、他の誰かがそれを使う。

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↑誰かがかけた梯子を使う。他にも「ここは危ないよ!」みたいな看板を立てておくと他のプレイヤーがそれを見ることができる。

 

 このシステム、うまいなと思ったのが、「カイラル通信」と言う設定。

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↑このドッグタグ風のアイテム『Qpid』を各地域の設備に接続していく。

 

 カイラル通信というネットワーク網を自力で歩いて繋いでいくのが、旅の大きな目的になるんだけど、この通信を各地域で繋がなければその地域の他プレイヤーの痕跡は現れてこない。

 これのおかげで、他のプレイヤーの残したモノでフィールドがいっぱいになったり、攻略手順のネタバレになったりする事がない。

 また、一度繋いでしまえば、帰り道のそこかしこに誰かの足跡と自分の足跡が重なり合ってたりと、直接一緒にプレイしていなくても誰かと繋がってる感覚を味わう事ができる。

 

 長いことプレイして、気づいた瞬間にちょっと感動したのが、何度も足を運んだルートが、他の人もたくさん通って、いつの間にか草が減ってあぜ道になっていたこと。これはちと凄い。

 システムとして、高速道路を復旧させて移動を楽に出来るんだけど、それ以上に感動した。自分の歩いた跡が道になる、これってなんか言葉にできない感覚。

 

 この自分と直接会うことのない人とが痕跡を辿って繋がる、っていうコンセプトが、とても現代的でSNS的な感じがした。

 さらに自分や誰かが残した足跡や設備には使った人が「イイネ」を送る事ができる。

 これは正直自分はどうでも良いと思ってはいるんだけど、自分が攻略のために設置したものに「イイネ」がたくさん付くと、まぁ悪い気はしない。

 と言うか、次第に「ここにこの設備を作っておくと、他の人たちも役立ててくれるんじゃないかな?」とか考えながら作るようになってくる。

 そんな緩いつながり、顔も知らない誰かのためにちょっとだけ優しくする。そんなSNSの良い面を抽出したようなシステムに「上手いことつくったもんやなぁ」と思わされてしまう。

 善きものをつなぎとめる「なわ」としてのシステムである。

 

 

《SFとしてのその他の要素》

 その他にも「棒」と「なわ」というコンセプトを軸に、実に様々な要素が盛り込まれているので、可能な限りで紹介。

 

『ミュール』

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↑いわゆるモブ敵の『ミュール』。

 かつては主人公と同じ配達人。分断された北米大陸では配達人は重宝され、感謝されていたが、感謝されることに取り憑かれて「配達依存症」になった人々。感謝されたいがために他人の荷物を奪ってしまおうとする本末転倒な方々。再生数やフォロワー増やすためにアホな犯罪行為起こす、痛いバカッターやYouTuberの象徴みたいなやつ。出てくるとわりと迷惑。

 こいつが居るからまともな配達人の主人公がより感謝されると考えるとちょっとあわれ。

 

『時雨(タイムフォール)』と『カイラリウム』

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↑掌のような形をした「カイラル結晶」

 この世界の雨は、あの世と繋がる(?)雨のため、通常の雨とは違う。触れた物や人の時間を奪う。つまり人間が時雨に触れると老化し、物体は劣化してしまう。同時に時雨が降るエリアはBTが出現するために人間には危険ゾーンとなる。

 あの世と現世では時間の概念が違うためにこういった現象が起きる。そして時雨やBTが現れた後に残されるのがカイラル結晶という物質。あの世の物質「カイラリウム」が結晶化したもの、と説明されるが、見ての通り掌によく似た形をしている。人体には有害なものだけど、旅の主目的のカイラル通信を繋ぐためには必要な存在。

 掌である意味。そもそもカイラルはギリシャ語で「手」という意味を持ち、カイラリティという学術用語もあるそうだ。

 カイラリティとは3次元の物体の鏡像は決して同一のものにはならない、という意味らしい。両手の手のひらを合わせると鏡合わせになるけど、両手を重ねても同一のものにはならないとかなんとか。

 要するにあの世の物質で本来現世に現れるはずのないものが掌の形を取って現れてるってことかな?自分自身よく分かっていない。

 

 掌のモチーフは本作中の至るところで見られる。

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↑主人公の全身にある消えない手形。プレイヤーによって数が違うっていう話聞いたがホントかな?

 

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↑BTが現れた時に出る手形。普通の人間には見えない存在だからこんな跡として認識される。

 

 

 じゃあ、何故掌なのか?それは、人が道具を使う際に一番最初に使う器官だから、じゃないかな。勝手な予想。

 人にとって最も古い道具が「棒」と「なわ」だとすれば、それを掴むのはどちらも掌。善きものも悪いものも手によって手繰り寄せられる。

 それには何かしらの人の意志みたいなもんが込められてるんじゃないかな。作中では不気味なもんとして出てくるけど何かしら必死さのようなものも感じられるし。

 

『ビーチ』

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 作中で何度となく出てくる風景。要はあの世とこの世の境目なんだけど、それが水辺というのが何とも日本的。海外の人からすると多少物珍しく映るかも知れない。

 このビーチの解釈が実に複雑で、基本的には人間は個々に別々のビーチを持つっていうとこから、そーではない存在もあって...正直この辺ややこしくて自分の頭じゃよく分かってない部分もある。

 物語後半ではこの『ビーチ』と『絶滅』がキーワード。これを巡って話が展開される。

 

 

 

 こんな感じで、軽く説明してみただけでかなりの量の設定がある。SFっていうジャンル自体がそういうもんなんだけど、どれも最終的には「なわ」によるつながりにたどり着く為のものと考えたら納得できるものが多い。よくまとめられたもんだと思う。

 

 

 

 

 

《この作品を取り巻く環境》

 本作は発売まで様々な紆余曲折を経ている。ノーマン・リーダス主演の「サイレント・ヒルズ」のお蔵入りから、メタルギアソリッドV未完成疑惑、んでもって小島秀夫監督の独立とプロダクション立ち上げ。

 こーゆー色々な事情を抱えて世に出た作品は、映画でもゲームでも正当な評価を受けにくくなってしまうもんだが、新規IPとしては十分な結果だと思う。

 キャストやゲームエンジンなど、様々な人とのつながりによって作られた今作が、テーマを「つながり」としていることには納得できる。

 

 

 

《難点》

このゲームで自分が感じた難点。

①やはりゲームとしてはムービーが長い。

 後述することにも関係してくるけど、やはりゲームとしてみるとラストのムービーは長い。演出映画好きとしてはノーマンやマッツの演技が堪能できるから自分は満足したけど、求めるものが違う層には受けないと思う。

 

②ストーリーを理解するのに時間がかかる。

 これはある種仕方ないところ。映画で時々あるパターンで、物語の舞台設定を殆ど説明せずに話が進行していく感じ。最近のゲーム以上にその傾向が強いから、普段自分から物語を考察して読み解くことをしない人にとっては理解が難しいと思う。その分最後のムービーで、映画なら説明しないところまでキャラクターが説明せざるを得ない分、最後のムービーが長くなってしまってる感はある。

 

③UIの文字が小さい。

 これはアップデートで対応済み。

 

 あとは小島監督が自己主張・自画自賛しすぎとかもあるかもしれんが、個人差ということで。だって公式サイト上のインタビューで作品へのコメントをする人があまりに凄い人達だからねぇ。

 「ghost in the shell」の押井守監督、「 the shape of water」でアカデミー監督賞・作品賞取ったギレルモ・デルトロ監督、先日公開された「スターウォーズ〜スカイウォーカーの夜明け〜」も担当したJ・J・エイブラムス監督。映画界の偉人達が好意的な評価してくれたらそりゃ自慢したくもなるわさ。

 

 

 

 

《まとめ》

 ゲームとしては、かなりトリッキーなこともやってるけど、今までのどんなゲームよりも旅をしてることを感じさせてくれた作品。得点なんかはつけないけど、個人的にはPS4世代のゲームとしては最高峰だと思う。

 間違いなく人を選ぶゲームであって、これを真似した作品とかは今後出ないんじゃないかなぁと思う。それでも、ゲームによる表現の可能性を広げたという意味では、ゲーム史に跡を残すゲームだと思う。