監督:ダニー・ボイル
主演:マイケル・ファスベンダー
制作:アメリカ合衆国
この映画は、コンピュータ業界の偉人、スティーブ・ジョブズが生涯を通して成し遂げた偉業を描いた伝記映画である。この映画を通して、天才の物事の考え方や偉業を達成するための努力を学び、人生の糧とすることができる。
............というのは全くの勘違いである。
この映画、伝記映画と言って良いのか迷うほど変な映画だった。いや、めっちゃ面白かったんだけどね。
この映画借りたきっかけは超ミーハーな理由。
「お、ダニー・ボイル監督か。」
↓
「お、主演マイケル・ファスベンダーか!2代目マグニートーの人やんけ。この俳優さん良い演技するし観てみるか」
これだけ。iPodとかi phoneでお世話になってるけど、スティーブ・ジョブズに関しては一般的に知られてることしか知らない。以前、「ソーシャル・ネットワーク」観たときは多少ザッカーバーグの知識があったんだけど、今回はなんとなく前提知識なしで観てみたくなった。
けど、DVD借りた時点で気づくべきだった。ダニー・ボイル監督の作品であることと...マイケル・ファスベンダーが全然ジョブズに似てないことに...。
この映画、歴史の再現度は一切気にしてない作品なので、ホントに上に書いたようなノリで観ると痛い目にあう。
『この映画の構成について』
この映画は大きく分けて3つのパートで構成されている。
それぞれ1984年、1988年、1998年のスティーブ・ジョブズの有名な(らしい)商品プレゼンの演説直前の様子。その40分間程の様子を順番に見ていく形式。
この時点で伝記映画としてはかなり特殊。
開発の様子や企画会議などの、この手の映画でよくある風景はほぼゼロ。Macがいかにして作られたかとか、当時の社会情勢、競合他社の状況など、普通の伝記ものならおさえてるはずのものがほぼ描かれていない。
凄いのが当時の『プレゼン会場』の様子は(恐らく)キレイに再現してるのに、「スティーブ・ジョブズの名演説」そのものは、一切見せもしないんだよね。あくまでジョブズの人間性に焦点を絞って、それ以外は各自で調べてね!ってスタンス。その時点でもう伝記映画の体裁はあまり気にしてないことがわかる。
で、脚本...というか、映画の中身なんだけど、一言で言うと、『不自然』。
ほんの40分程度の間に、ジョブズにまつわるありとあらゆるエピソードが詰め込まれてる。
①子供の認知に関する家庭の問題
②ウォズニアックとの確執
③ジョブズをアップルからクビにした人達
④ジョブズの異常なこだわりによるアレコレ
これらがぜーーーんぶ同時進行で次々に展開していって結構目まぐるしい。
どれだけ史実に忠実なのかはわかんないけど、ステージ直前のスタッフ入り乱れる状況に並行して行われるってのはいくらなんでも無茶!
......まぁ、もしかしたらジョブズの取り巻く環境が実際そんな感じだった可能性もあるけど、正直リアリティっていう面で観ると現実感はあまりない。
ただ......この映画、見方を変えると印象がガラッと変わる。
途中から映画を観るのではなく、舞台で演じる演劇を観ている感覚で観ると、ストンと腑に落ちた印象。連続で起こる会話劇を観てる感じ。
なので、場面転換とかはあくまでオマケ。回想とかも必要最小限。正直ホントにジョブズ『学び』たい人はこの映画は止した方が良いと思う。
『この映画の楽しみ方』
こんな感じの映画だけど、どう観るのが正しいのか...。正解かどうかは分からんけど、自分は「セッション」(2014年)を観た時と同じような感覚なのかな、と思った。
この映画もそうだけど、深く考えたり、細かい設定気にするより、トランス状態に近い感じで気持ちよくなるタイプの映画なんじゃなかろーか?
まくしたてるように展開される会話劇の応酬(主に口論)が、フレッチャーの指揮とニーマンのドラムのバトル(?)に重なって見えた。
※ただし、今作ではジョブズの方が狂人フレッチャーのポジションだけど...ww
『この映画の中でのスティーブ・ジョブズという人物』
実在する人物を描いた映画としては大きく分けて「本人に取材をして当時を再現する」か、「密着取材をして、ドキュメンタリーとして作る」か、「資料を集めて、その人物を知る人間に取材をして当時を再現する」くらいのパターンがある。もちろん故人の映画は3つ目の作り方しか出来ないので、今作もそれだとは思う。
けど、どの位ホンモノのジョブズ像に近いのかは正直わからん。けどそもそも近づけようとしてるのか...?
...似てるの服とメガネだけじゃね?
↓もうひとつの映画の方(2013年)
こっちの方がまだ似てるような...。その内見比べても良いかも。
ただ、これは映画観てると全然気にならない。むしろ最初っから「忠実な再現は目的じゃありませんよ〜」っていう、映画の入り口案内にすら感じた。
2015年版映画におけるスティーブ・ジョブズは......控えめに言っても相当なクズ。
ウォズニアックとの会話の中で何度「f○ck you!」て言ったことかww
彼の芸術家気質故の問題が凝縮されたような映画だった。
「マッキントッシュがhello!って言わない。言えるように直さなきゃプレゼン中止!!」
「フロッピーを胸ポケから取り出して見せたいから、サイズ合うカッターシャツ持ってるヤツ探して服奪ってこい!」
とか。
どの位ホントの姿なんだろーか?
バカと天才は紙一重とは言うけど、少なくともこの映画の中ではこの人狂人ですわ。
『映画で人物を描く面白さ』
2時間で人1人の人生を描くってのは、実際かなり難しいことだと思う。全てを網羅するなら小説とかの方がやりやすいはず。
この映画には、ジョブズが菜食主義者だとか、CEOに返り咲いてからは1ドルしか給料もらってないこととかは描かれていない。
その分この人の異常なまでの情熱とこだわりについては堪能出来るんじゃないかな。ダニー・ボイル独特のオシャレ空間のおかげで退屈しないし。
脚本を『不自然』と書いたのも、明らかに確信犯的にやってることだから。セリフのリズムと間の絶妙さが気持ちよくなってきたらこの映画を楽しめると思う。
強烈なエネルギーにあてられたい人には良いんじゃないかな。