映画の感想などなど

自分が観た映画の思ったまんまの感想。

オン ザ ハイウェイ その夜、86分

「オン ザ ハイウェイ その夜、86分」(2013年)

監督:スティーブン・ナイト
主演:トム・ハーディ
※制作:イギリス・アメリカ合衆国

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あらすじ
超高層ビルの工事を手掛け、明日に重要な工事作業を控えている大手建設会社の社員アイヴァン・ロック...妻と息子が自宅で帰りを待っているが、彼はBMWの愛車を自宅とは違う方向のハイウェイへと走り出していく。Bluetooth操作の電話で連絡を繰り返しながら高速を走る彼は己の人生の大事な岐路へと向かう。

 


感想(?)以下ネタバレ含む
映画の種類として、ワン・シチュエーション映画、ってものがある。

ある一定の環境で限られた空間のみで描かれる映画。
特にソリッド・シチュエーションって呼ばれるものはホラーサスペンス系がほとんど。例えば「saw」とか「cube」とか「オープン・ウォーター」とか。異常な環境に閉じ込められて、何らかの方法で脱出を目指すような映画。これらは正直好きじゃない。日常生活では起こり得ないシチュエーションが多くて感情移入出来ないから。

中には実話ベースのものもあったりするんだけど、どこかに閉じ込められたりするものが多くて、やっぱりこれもリアリティに欠ける。

この手の映画で実話ベースのものは「127時間」を超える映画は無いと思ってる。あれは最高だったからいつか書くか。

 

本作は、シチュエーションとしては極めて現実的で、その姿だけを見るとありふれた場面である。

 

男が一人、ハイウェイを車で走る。運転しながら電話する。以上

登場人物、トム・ハーディが演じる男。以上

本当にこれだけ。

オープニングで車に乗り込むシーンはちらっと見えるけど、あとは本当に車の運転席のみで物語が進む。

86分とはそのまんま映画の上映時間で、車中の映像だけなので、姿の見える俳優はトム・ハーディただ一人。電話先の声は一応聞こえるんだけどね。

ポスターもそうだけど、ライティングが綺麗でパッと見イギリスのMVかな?と思ってしまう。

 

こっからややネタバレあり

 

基本的に電話を通した会話劇で話が進行していくわけだけど、大まかな話の流れが三つほど同時進行する。

①自分が勤める建設会社から、明日の大規模工事に関する電話。

②自宅で一緒にスポーツ観戦することを約束していた妻と息子、つまり自宅からの電話。

③陣痛がきて、今まさに子供を産もうとしている女性からの電話。

この3つが次々にかかってきて、あるいはこちらからかけていって物語が進む流れ。

 

特にシチュエーションの説明もなく、観客は通話内容から徐々に主人公の立場を察していく構造になっているんだよね。すごく上手い。

どうやら③の電話が原因でハイウェイをはしってるんだな?とか、主人公は結構なエリート社員なんだな?とか。会話を聴いていると自然とこの主人公の立場がわかっていく。電話の順番とか内容とか相当細かく考えられてると思う。

 

 

電話の内容全て言っちゃうとまずいかも知らんけど、掻い摘むと...

 

①の仕事に関しては主人公は完全に勝ち組エリートである。BMWに乗ってて、超高層ビル建設の現場責任者として、相当なお金と人を動かすポジションについている。そんな主人公が絶対に席を外せない重要な現場を部下に任せて、どこに向かうのか...っていうのが、物語の始まりになっている。

 

②に関しても、主人公は普通の家庭の普通な幸せを手に入れていることがわかる。サッカーの試合中継を一緒に見るために「早く帰ってきて」とせがむ息子は声からして多分10代だろうと思う。子供に愛され、奥さんからも愛され、主人公の人生は一般的に見れば満ち足りたもののような印象を受ける。

 

③に関しては...う〜〜〜〜む......まぁ多くは語らないけど、世の中の旦那様お父様方にとっちゃ恐ろしいもんだよね...。人によっちゃあジグゾウのかける罠より恐ろしくみえちゃうんじゃなかろーか。

 

この3つの会話劇が進むにつれて観客は、主人公が①と②を全て捨てようとしていることに気づく。

そこにどうしても焦点が向きがちなんだけど、この物語のテーマが「一人の男がこれまで手に入れてきたものを全て捨てて人生が壊れていく様」であると思って観ている人は、「あれ?なんか違う?」と途中で思い始めると思う。「あ、大事なのはそこじゃね〜んじゃ...」と。

 

何故なら、物語が始まった時点で主人公は既に心の中で決断を下し終えているから。

そこに重点を置くんなら車の中以外も描写が必要なハズ。

高速道路の周りの景色も、後ろに流れていく街灯以外殆ど見せないのは、主人公が行き着く先も、進路変更をする事がない(出来ない)こともわかってるからだと思う。

街灯の光はただ後ろへ流れていくだけ、もう引き返すことは出来ないのだと。

 

じゃあこの映画で何を描きたかったのか...自分の主観だから正解かどーかはわからんけど、「父と子」そして、「責任」なんじゃないかなーと。

主人公が時折語りかける車に乗っていないハズの「自分を捨てた父親」。

その親父に対して、「自分は親父とは違う」「失敗の責任を取る」と語りかける姿が象徴的。

けど、結局自分の行動がもたらす結果も分かりきってて...その矛盾と葛藤が観ていて身につまされるというかなんというか...。

 

息子との会話に関してだけは、主人公も感極まってしまうんだけど、トム・ハーディの演技やっぱすげぇ。

息子の涙声とかこっちももう聞いてられないんだけど、この映画は最後に新しい命の産声で終わるんだよね。俺には主人公の選択が正しいのかどうか答えられん。

どっちにせよ、無責任な行動はあかんってこったな...。

 

あとこれは何となくだけど、この映画、ヨーロッパ特有の思想観だとか宗教観だとかが込められてるんじゃないかな〜と勝手に思ってる。向こうの人はまた別の感想になるのかも。俺はよくわからんのでわかる人が解説してくれれば...。

 

こんだけ書いちゃうと内容もうバレバレなんだけど、この映画は全部知ってて観ても十分見応えある。

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何しろ全編トム・ハーディの演技力でやり切ってるから、その力を堪能するだけでも素晴らしい。

86分間絵面を運転姿のみで持たせられるって凄すぎだわ。カメラたぶん3台くらいで低予算なんじゃねーかとすら思うけど、そこいらのサスペンスホラー観るより全然面白いと思う。

 

トム・ハーディを知ったのは、ダークナイトライジングのベイン。表情見せずに肉体と声で演じ切ってすげぇなぁとは思ってたけどここまでとは...。今自分が最もお気に入りな俳優の一人です。

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この後も「マッドマックス 怒りのデスロード」とか「ヴェノム」とか良い映画にたくさん出てる。

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アクションと肉体美が賞賛される事が多いトム・ハーディ

だけど、筋肉も激しいアクションもない、人間トム・ハーディのみでやり切った「オン ザ ハイウェイ」は特にお気に入り。

 

トム・ハーディ好きな人は観て損は無いと思う。

家族がいる人は一人で覚悟して観るといいと思う。

男女差別する気は全くないけど、人によって納得いかない人も居るかも知れないんで、女性にはオススメできない。

妻や子供にやましい秘密を抱えてる男性は...観るな...。

 

追記

この文章書くにあたって改めて映画を見返した。エンドロール観たらトム・ホランドがキャストに入ってた。声だけの出演だわ。ちとびっくり。