映画の感想などなど

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攻殻機動隊 SAC_2045

攻殻機動隊 SAC_2045』

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英題:『Ghost in the Shell: SAC_2045』
原作:士郎正宗
監督:神山健治 荒牧伸志
シリーズ構成:神山健治
配信期間:2020年4月23日 -
話数:全12話(シーズン1)

 

ま〜〜た映画じゃないけど、大好きなシリーズなんで別に良いよね。先に言っておくと、最初っからわかってたことだけど、シーズン1で終わるわけもなく既に2ndシーズンも制作決定してるから物語的には序章に過ぎない。ある程度ネタバレも書くけどまだまだわかんないことだらけです。

 

 

《00年代SFアニメの傑作、の続編》

士郎正宗原作の漫画『攻殻機動隊:ghost in the shell』、そしてそれを劇場アニメ化した押井守版が公開されたのが1990年代。『AKIRA』と並んで海外に多大な影響を与え、今や日本のSF(特にアニメ)の代表格となったこの作品に出会ったのが高校から大学にかけて。以前書いた通り。

この作品を00年代の社会に向けてアジャストしたのが神山健治監督作品『攻殻機動隊/STAND ALONE COMPLEX』。

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当時の社会や科学技術を踏まえたテーマ性や世界観から高い評価を受けたこの作品。その続編が、ようやく公開されて今かなり話題になってる。Netflix限定配信っていうのも今の世の中に合わせてきてるよな〜。

 

あくまで私見だけど、アニメに限るとSFの最高傑作は90年代は『攻殻機動隊/ghost in the shell』、00年代は『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』、2010年代は『PSYCHO-PASS』だと思ってる。SFってジャンルは現実の科学技術や社会性と密接に繋がってるからその時代によって合う作品が変わっていくものだと思う。それに合わせて大体10年周期で面白い作品が作られていくものだ、と勝手に思ってる。じゃあ20年代は2023年くらいに出るのかなぁ?と思ってるんだけど、本作『SAC_2045』がそうなれるかどうか...完結するまでまだわからない。正直未知数。

改めて言うけど、現時点のシーズン1は序章なので今後の展開が読めない。ただ、序章としてはなかなか期待できる内容だった。

 

2045年

今作の舞台はタイトル通り2045年。今から25年後の世界である。

〜ざっくりあらすじ〜

高度に科学技術やAIが発達した未来、世界同時デフォルトの発生によって全世界の金融機関が停止、経済破綻が起きて貨幣や電子マネーの価値が暴落。各国は戦争行為を産業として持続可能な戦争、『サスティナブル・ウォー』を行うようになる。徐々に滅びへ向かう世界の中で、すでに解散していた公安9課の再編と新たな事件が描かれる。

 

と、簡単なあらすじなんだけど、SAC第1作目の通称「笑い男事件」の物語が2030年。そこから15年と結構な年月がたった舞台設定になっている。

これは2030年がもう10年後に迫ってきている現代とのバランスを取るためだと思うけど結構思い切った変化だなぁと思う。今を生きている人達が将来生きたまま迎えるであろう年代、だけど適度に遠い未来の絶妙なチョイス。

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↑2030年ごろの荒巻課長。

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↑本作2045年の荒巻課長。義体化してないのに見た目変わってねぇ...。年齢設定特にないとはいえなんか3Dになってむしろ若くなってる気が...。もう80くらいなんじゃ...

 

 

見た目のことは後述するとして、この舞台設定に果たしてどの程度整合性があるのか...経済学者じゃないので断定したことは言えない。けど、奇しくも新型コロナウイルスパンデミックによって今後世界規模の経済不況が予想される今このタイミングでは空恐ろしいもんがある。

もし現実世界でコロナ不況の解決策として米中あたりが戦争の輸出を強化していったら...とか、妄想するとなんだか予言めいた舞台設定な感じがしてしまう。

神山監督はそういう現実を反映させた物語作りがホントにうまい。第1作目で登場した『スタンドアローン・コンプレックス』っていう社会現象もネットワークが浸透して見事に予言的中しちゃってるし。

 

補足...スタンドアローン・コンプレックス

電脳技術という新たな情報ネットワークにより、独立した個人が、結果的に集団的総意に基づく行動を見せる社会現象を指し、孤立した個人(スタンドアローン)でありながらも全体として集団的な行動(コンプレックス)を取ることを意味する。(Wikiから抜粋したけど、SAC実際に観た方がわかりやすい)

 

↑この現象については現代のインターネット社会で普通に起きていることではなかろーか。

 

 

 

《神山監督の時代の捉え方》

このシーズン1において、2045年という時代を端的に表してるのが第7話「PIE IN THE SKY /はじめての銀行強盗」というお話。かなり印象に残ってる。

それまでは、北米で活動していた少佐たちとその行方を追うトグサ、という構成で物語が進んでいたが、この第7話で舞台が日本の福岡に戻る。(攻殻機動隊の世界では東京都は一度壊滅して、首都が福岡に遷都されている)

他のメンバーより早めに福岡に着いたバトーが、海外の金を両替するために銀行に立ち寄ったところ、その銀行に強盗が押し入ってきて...なんやかんやでバトーが強盗たちに人肌脱いでやって...という内容。

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まぁ本作における日本の状況を説明するためのエピソードなんだけど、この強盗事件の犯人の描き方が実に秀逸。

 

犯人の正体は世界同時デフォルトの影響で財産を失った老人達。銀行の所長に電子マネーを投資して全部溶かされたことの逆恨みからの犯行で、この犯人たちの描き方が実に気分が悪い。途中でたまたまそこに居合わせたおばあちゃんもその犯行に加わってくるんだけど、このおばあちゃんがもうひどい...。

外国通貨を両替したら、世界情勢の影響で換金率が低く、思ったより手元に残らない→「それじゃ困るのよ!」

強盗が手に入れた金は通しナンバーが控えられているから奪ったところで使えない→「私は使えるお金が欲しいの!なんとかしてちょうだい!」と(一応)人質のバトーに言う。

世界同時デフォルトについて→「なんなのそれ?お金の管理は主人任せだったから私何も知らない!なんとかして!」

 

はい、これ。完全にいわゆる『老害』ムーブですわ。自分でリスクを回避する努力はせず、基本的に人からもらうことを前提として自分から情報を入手しようとしない。責任も取らない。でも文句は言う。ここんところの色んな報道で批判の多い老年世代の典型例。現代の『老害』って言う酷い括りで語られる人たちを痛烈に皮肉った描き方が成されてる。

これを観て、「そうそう!こういう無責任で身勝手なジジババが今の日本にゃ多いんだよ!」って感じで高齢者叩きに勤しむおバカちゃんも中には居るかも知れんけど、この作品の舞台設定考えるとハッとさせられる。

この物語は2045年、今から四半世紀経った未来。つまりこのじーさんばーさんって現代の若者たちの未来の姿なんだよね。自分と同年代の人を見てると、確かに25年後こうなってもおかしくないな、って人は一定数いるなぁと感じる。神山監督は別に老人批判をしたいわけでも若者に警告する!って訳でもないんだろうけど、自分もいつかああなるかも知らないと思うと考えさせられるものがある。

流石は『東のエデン』の作者。目の付け所が鋭いというか、色んなものの見方ができる人だなぁ。ちなみにこの話のオチはなんとも言えない胸糞悪さが残る。

 

《現時点での感想》

一作目と比較するとまずまずって言うのが一般的な評価。世間的には3D化に対する否定的な意見が多い。たしかにグラフィックを求める視聴者にとっては違和感が強いと思う。でも個人的にはそこまで気にならなかったかな〜。笑い男ともクゼヒデオとも明らかに異質な今回の敵、ポストヒューマンの『非人間』ぽさ、『異質感』を表現するのにはCGが上手く機能してたと思うし。

何より、これまでのSACのメイン声優さん達が軒並み再集結してることがでかい。これだけ年月経っても変わってないのってホント奇跡に近い。田中敦子さんが「タチコマ!!」て叫んだらそらもう攻殻だわww阪脩さんがもう89歳だけど、現役で課長を演じてるのが嬉しすぎる。

個人的には声優さん達の演技のおかげでCGの違和感はそんなに感じない。

 

これまでのシリーズにはない、相当先が気になるクリフハンガー。これまでとはタイプの違う新キャラの中でもさらに異質な少年『シマムラタカシ』。そして可愛さがアップしてるタチコマたち。続き見たいなぁ。

まずは2ndシーズンを待たねば...。自分は批評家じゃないんで、鋭い考察も細かいつっこみもしきらんけど、これからこの物語がどう広がっていくのかホント楽しみ。