『LOGAN/ローガン』
原題:Logan
主演:ヒュー・ジャックマン
監督:ジェームズ・マンゴールド
製作国:アメリカ合衆国
公開:2017年
以前この作品については触れたことがあるんだけど、『X-MENーダークフェニックスー』を観て何となく改めてこの作品の感想書きたくなった。
『ローガン』
タイトルを見て、直ぐに主人公が思い浮かぶ人はアメコミある程度好きな人。上のポスター見て「あぁこの人ね」って分かるのが一般的な人。
この映画はアメリカの超超超代表的なコミック「X-MEN」の主要人物ウルヴァリンを題材にした作品。「ローガン」というタイトルはウルヴァリンの親しい人からの呼び名。
↑この人のこと、って言えば皆すぐわかると思う。
この映画、タイトルがウルヴァリンではないことにはちゃんと意味がある。本作はヒーローとしてのこの人じゃなくってあくまでローガン個人の物語である。
《この物語の立ち位置》
X-MENの映画シリーズはちと複雑な時系列になっている。
①最初に映画化された現代社会を扱ったシリーズ。
②冷戦期からの過去、X-MEN黎明期を描いた作品。
③この2つの時代を行き来しながら未来を変える話『フューチャーアンドパスト』
④『フューチャーアンドパスト』によって改変された後の世界の物語。
未来が変わったりしてるからシリーズ観るの結構ややこしいんだけど、この『ローガン』はこれのどれにも属していない。厳密に言えば①の未来だと言えるかもしれないけど、かなり独立性が高くてシリーズに含めていいのかわからない。
《あらすじ》
2029年、超人集団のX-MENは解散、新たなミュータントが生まれなくなって25年、かつての「ウルヴァリン」ことローガンはリムジン運転手としてひっそりと暮らしている。
ある日、成り行き上、ローラという11歳の少女を、ミュータントが唯一平和に暮らせる楽園「エデン」と呼ばれる合衆国北方まで連れて行って欲しいと言う依頼を受けることとなり、北への逃避行が始まる。
超ざっくり言うとこんな感じ。
《ヒーローの成れの果て》
本作では、X-MENで活躍するミュータントは殆ど存在しなくなっている。ローガンは数少ない生き残り。
ウルヴァリンとしての本来の能力は...ほぼほぼ不老不死であること。
銃で打たれようが剣で切り刻まれようが、原爆に体を焼かれようが(マジで)、肉体が再生され死なない。そのヒーリングファクターゆえに他の人じゃ耐えられない人体実験にも耐えてしまうもんだから、骨格にアダマンチウムという金属を埋め込まれ、手からあの爪を出せるようになっている。そして150年くらい生きてる超長寿なので、どの時代の作品にも出ることができる。
こんな出自なので、特に人気で、いろんな作品に登場するんだけど......
本作のローガンは...
↑ご覧の通りのオッさん...あの逞しいウルヴァリンとは思えない...。
能力は減退し、治癒力は落ち、老化も進んで常に咳をして、終始調子悪そうな感じ。しかもかつてX-MENを率いていたプロフェッサーXことチャールズ・エグゼビアは...
↑ボケの老人と化している。
世界最高のテレパシー能力を持っているチャールズは、アルツハイマーにかかっていて、薬を飲ませないと能力が暴走して全ての人類の精神を壊しかねない存在に...。
............いや、もう......ね。最初なんだか見てらんなかったですよ。世界中の子供達が憧れるヒーローが、未来では老眼鏡かけて老々介護してるとか......少年の夢ぶっ壊されまくりですよ。
もう世界を救うために戦うヒーローじゃないから「ウルヴァリン」の名は語っていない。だからこの映画って正確にはヒーローものとさえ言えないかもしれない。
《戦うオッさんと戦う少女》
生きる意味を失って居場所も失ったローガンが、最初は拒絶するものの結局連れて旅をすることになるのがローラという少女。
↑子役のダフネ・キーン(当時まだ12歳!)が演じるローラ。この子の演技力の高さもこの作品の魅力。
この子も、手の爪を見ればわかるようにミュータント。この時代に生まれた数少ないミュータントのこの子を保護して安全なところまで連れていくのが旅の目的。
色々訳ありで命を狙われている少女なんだけど、手の爪とこの子のコードネーム「X-23」という名前を聞けば、分かる人にはすぐどんな子かわかると思う。
「オッさんと少女」っていう組み合わせは、「レオン」を見た時から大好きである。変な意味じゃなく。無口な少女と死にそうなオッさん、この手の作品のお約束で、最初は険悪だった2人の関係が徐々に親子のような絆に変わっていく。その過程を描くことがメインなので、他のアメコミ原作の映画に比べると、戦闘描写はやや少なめ。
よく自分も大好きな名作ゲーム「THE LAST OF US」との類似性を指摘されるけど、確かに空気感は近い。
↑年齢も目的も似ているところが多い。
どちらも名作だし好き。
ただ、本作「ローガン」はX-MENという土台がある。それまでの彼の人生を知っているからこそ、感情移入出来るし彼の人生を見届けたいという気持ちにさせられる。
↑ヒーロー時代のローガン。映画版の彼も通してみると大概壮絶な人生を送ってる。
こっから盛大にネタバレ。
《終われなくなった映画界で描く終わり》
この映画、前述の通り、最初から悲壮感漂いまくりで結末もなんとなくわかっちゃうんだけど......うん、ローガンは死にます。奇跡の逆転もどんでん返しもなく死にます。この「ローガンの最期」は、今のハリウッド界、とりわけヒーロー映画においてはとてつもなくでかい意味を持つようになった。
映画のユニバース化が進んだ現在、映画という娯楽にエンディングを描くことができなくなってきている、ということを以前書いたことがある。
どの作品もクリフハンガーで終わり、作品一つ一つが全て次への繋ぎになってしまう。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』でキャプテン・アメリカとアイアンマンの最期を描いたものの、それも悪い見方をすると、次のスパイダーマンへの繋ぎに成り下がってしまってるところがあることは、否定出来ない事実である。
あれだけ人気を博したアメリカのドラマ『ウォーキング・デッド』もシーズン10まで続いて、どう着地するのか、着地出来るのか分からなくなってしまっている。いや今でも面白いから観てるけども。
そんな中でここまで明確に、しかも長年主役を務めてきたヒーローの最後を描いた本作は、他には決して出せない輝きを放っているように思う。
ラストシーンの墓標のX印。あれが、ローガンの人生と、ヒュー・ジャックマンの代表作としての価値を象徴してる。
今後、映画のX-MENシリーズが作られ続けるとしたら、再びウルヴァリンが登場することがあるかも知れない。ヒュー・ジャックマン本人も、別の人が演じるウルヴァリンを楽しみにしてる旨のコメントも残してる。でも、もう二度とこれまでのシリーズで出てきたローガンは出てこないだろう。登場するとしても別の新たなウルヴァリンだと思う。
それだけヒーローとしての姿が定着したのは、やはりヒュー・ジャックマンの力が大きいと思う。よく考えたらスーパーマンもスパイダーマンもバットマンも映画では俳優が交代しながら演じている。それをローガンに関しては17年間ずっとこの人が演じてきたこと自体凄いことだと思う。
そういうことも含めてこの映画、アメコミ映画にも関わらずめっちゃ感動した。これからの映画界で、とりわけヒーローものでこんな素晴らしい『終わり』を描いた作品にまた会えるだろうか。どのシリーズもいつかは明確な『終わり』が来ること、寂しかろうとそれは必要なものだと思う。