公開:2017〜2018
監督:上田慎一郎
制作:日本
〈去年の異常なヒット〉
この映画、絶対映画館で観るつもりだったのに結局見に行けなかった。けど、この映画結局年末も上映してるところなかったっけ?そんくらいロングランで上映されてたよね。
小規模上映から次第に口コミで広がっていって気がつけば社会現象になってったわけだけど、ネタバレ見たくなかった故に「なんか凄い映画がある」って情報だけ仕入れてあとはシャットアウト。ようやく家庭用が出てみることができた。
監督と俳優の養成スクールの作品で、当然低予算で作られた作品なんだけど、世界中で絶賛されて、日本での話題っぷりも誰もが知っての通り。
実際観てみると...たしかにホントにこれはちょっとそこらの映画とは違った。一般受けもそりゃー良いだろうし、何より映画好きとか映画に携わっている人とかはすっごい好きになる映画だと思う。
こっからネタバレあり
正直この映画は出来るだけ何も知らずに観てほしい映画だからまだ観てない人は出来れば読まないで!
〈内容〉
正直知ってる人だらけだろうけどもう一度、この映画の1番のキモなんで、まだ観てない人は読まないで欲しい。つっても細かいことは書かんが...
数名の映画スタッフと俳優が廃墟に居る。彼らはそこでゾンビ映画を撮影しようとしているが、こだわりの強い監督のせいでなかなか撮影が進まない。撮影を中断して休憩をしていたが、なんとそこに本物のゾンビが入り込んで廃墟はパニックに!リアリティを求める監督は本当に犠牲者が出てもそのまま映画撮影を続けようとするが...
という内容の物語をワンカット撮影する羽目になった監督が、ドタバタ劇繰り広げながら撮影する様子を描いた映画。
というのがあらすじ、というか全部。
劇中劇を撮る劇をみることになるのかな?
まず最初に劇中劇を観るわけだけどこの時点でもう笑いどころが多い。劇中劇ってカラクリもわざとすぐわかっちゃうからぶっちゃけゾンビ映画としての怖さとか緊張感を求めて観るのは的外れなので注意。
〈ゾンビ映画とは...〉
「ゾンビ映画を観れば、その国の映画文化の文化的地位がわかる。」
これは自分が超〜〜〜勝手な偏見とあっさい映画知識でわかった持論。もちろん異論は認めるww
自分がそう思うのには一応理由はあって、まぁモチロン、ジョージ・A・ロメロの「Dawn of the dead」が歴史的な名作で後世に多大な影響を与えたのもでかい。
現代においてもゾンビ映画作るなら、特殊メイクの技術、CG技術とか、映画でのあらゆる技術がなければならない。
今の世の中でゾンビ物撮るなら、発生理由とか解決方法とかもありきたりなもんにならないアイデアも必要。
そして、作品によってはその国の国民性や、思想とかも関わってくるのがゾンビ映画だと思う。
だから「28日後...」を作ったイギリスもそうだし映画作りが盛んな国には大体ゾンビ映画がある。...と勝手に思っている。
正直「新 感染 ファイナル・エクスプレス」を観たときは「韓国映画ここまで凄くなったのか!」と衝撃を受けた。
で、ゾンビ映画と言えば...まぁ、アメリカだわな。アメリカに至っては映画どころかドラマでもゾンビが生活に浸透(笑)してる。
自分もウォーキングデッドは観てるし。
ドラマレベルで最高峰のゾンビメイクと物語やからね。やっぱ流石は映画の国。
アメリカがゾンビもの大好きな国である理由は向こうの社会性にある。そもそも移民達が銃で勝ち取った国がアメリカである。だからこそ現在でも銃社会だし、銃がなくなることはない。外敵を銃で排除し、自分の身は自分で守るのがアメリカの国民性。だからこそ映画の中でも敵は銃で倒されなければならない。
ホラー映画では「ゾンビ」は銃で倒せる。アメリカでは安心して倒せる敵だから「ゾンビ映画」は歓迎される。(いや別に銃批判をここでするつもりはないけども)
〈日本のゾンビ映画〉
一方日本はそうはいかない。そもそも生活に銃なんてものが結びつかない。だから日本のホラー映画って言われたら大体幽霊「ゴースト」が現れる。解決方法は「銃で頭を撃ち抜く」とはいかずに、「別の人に呪いを移す」とかになる。ハリウッドで「リング」がリメイクされた時は、「こいつぜって〜銃で倒せねぇじゃん!」てところがアメリカ人的に相当な恐怖だったらしい。
じゃあ日本のゾンビ映画はというと...ヒット作は本当に数えるほどしかない。ゲームだと「バイオハザード」がゾンビゲーの代表格だけど、「日本 ゾンビ映画」で検索かけると殆どがB級映画。残念ながら。
「桐島、部活やめるってよ」のクライマックスで描かれたように、日本の映画好き、映画作りたい人にとってはゾンビ映画って憧れの対象なんだよね。日本人には作りたいけど、なかなか手が届かないものってイメージ。
だからこそ「アイアムアヒーロー」がヒットした時は正直自分もめっちゃ嬉しかった。
設定とかも漫画の時点で上手に作ってたし、日本では銃弾がなかなか手に入らない事情とかも上手く物語の中に絡めて見事に「日本のゾンビ映画」を作ってくれた。細かいツッコミは置いといて、メイクとか特殊効果とかもなんか「ここまで頑張れるんだ」てのが観られて、自分的には日本の実写化映画の中では相当良かったと思う。
こんな事情から、「カメラを止めるな!」がゾンビ映画を作る人たちを撮ったものだってことも、養成スクールの人々達が作ったってことも凄く納得した。
ゾンビものってのはカルトなジャンルではなくって、映画作る人たちにとって憧れであり希望なんだよね。
〈映画を作る人々〉
この映画の劇中劇は37分間ワンカットでフルに観ることが出来る。ワンカット風映画と言えば、ハリウッドで数年前話題をかっさらった「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」がある。
これもつい先日観たけど、こっちのワンカット風はあらゆる技術を駆使してお洒落な映像になってて、これも名作だった。
これに比べたら、「カメラを止めるな!」はとんでもなくローテク。手作り感満載。血糊も死体もスタッフが作った感満載。
なんだけど、これが最高に良い!37分間ひたすら必死にスタッフも頑張ってる姿が思い浮かんでなんかずっとニヤニヤしながら観てられる。多分演出上のアクシデントだけでなく実際その場で起きたアクシデントもそのまんま入れてるんじゃねーかな?
劇中劇を観終わるとその後は種明かしパート(?)に入るんだけど、そっちも最高に良い。なんだか映画作りへの情熱がたっぷり詰め込まれてて、ゾンビものがテーマなのに最期は爽やかなほっこりした気分で観終わる。
正直やってることは無茶ばっかりでバカバカしく見えるかもしれない。でも、出演してる人たち全員が一生懸命映画完成させようとしてる姿はなんだかバカにできないんだよなぁ。
自分はエンドロールの映像観てて結構感動してしまった。
若手の映画に携わる人は勿論、モノづくりに携わる人は皆この映画観て元気もらえると思う。
〈日本映画のこれから〉
この映画観て、日本映画について思ったこと。
上田慎一郎監督はこれが長編初監督作品。若手監督がこれだけのもん作ったのは凄いことだと素直に思う。だけど、これから先日本の映画シーンがどのようにこの人達に働きかけるのかすっごい気になる。
今後、こーゆー人達にどんな映画を撮ってもらうのか。
大金出してアイドル俳優の宣伝のための映画とか間違っても撮らせないでやってほしい。
監督名だけ祭り上げて、あとはどうしようもない大根演技のアイドルに金使う映画(タイトルは言わないが)多いけど、そんなんで若いクリエイターを潰すのだけは絶対にやめて欲しい。
逆に他の若手クリエイターに「カメラを止めるな!」と同じような映画をわざと低予算で作らせるようなこともしないで欲しい。
この映画は若い才能が、情熱と映画愛で死ぬ気で生み出した奇跡のようなもんだから、作ろうと思って作れるもんじゃないタイプの映画だと思う。
だから、日本の映画界は、今の若手にお金と作りたいものを作るチャンスをもっとあげてほしい。
この映画を観て、日本の映画作りへの強い愛情を感じることができた。これをきっかけに日本の映画シーンが元気になって、もっと見応えのある映画が増えてくれれば良いなぁ。